2009年7-8月中国内蒙古自治区出張報告
2009年9月4日
中村 尚司
<日程>
2009年7月25日-8月2日
<中国内蒙古自治区出張の目的>
- NPO法人「沙漠緑化アミダの森」九州3事務局主催の「シリンホト第22次緑の協力隊」に同行し、故選一法理事長とともに植林活動に従事することを通じて、砂漠緑化の成果を学ぶ。あわせて植林活動に付随する問題や今後の展望について、日中双方の関係者と意見を交換する。
- 中国内蒙古財経学院と龍谷大学経済学部河村能夫研究室との共同調査グループに同行し、内モンゴル草原の沙地化が進む現状を実地調査するとともに、その原因や当面の解決策について吟味する。

育った樹木の間伐作業

植林地での活動風景

現地の小学校へ文房具等贈呈
<調査の概要>
- 7月25日に福岡国際空港にて「シリンホト第22次緑の協力隊」と合流し、大連空港にて入国手続きをする。同日北京にて宿泊する。翌26日に空路にて蒙古自治区の首都フフホトに着き、夜行列車にてシリンホトに向かう。夜明けとともに、車窓から見るモンゴル草原は、ところどころ砂地がむき出しになっている(中国語の沙地)。そこかしこに見える立木は、ほとんどすべてが楡(ニレ)である。車窓からの景観が教えるシリンホト草原に固有の植生は、浅い砂地の上に広がる草地と楡の灌木である。
かつて北京の空を飛ばなかった野鳥が、オリンピック開催準備に伴う工場移転の結果、再び観察できるようになったのに、近年の内蒙古炭田開発の結果、シリンホトの街には粉塵が舞い、野鳥も飛ばず、夜空の星も観察できなくなった。環境破壊の舞台は中央の大都会から辺境の自治区に移りつつある。
28日と29日の両日、「中日友好百年林区」へ赴き、障子松や山杏の苗木を植え、身長の2倍くらいに生育したポプラやアンズなどの枝を剪定する。車で1時間半かかる行程の行き帰りに、地元の育才小学校に立ち寄り、就学支援の物資を届けたりする。学校や周辺の農家を訪問し、「アミダの森」は植林活動を行うだけでなく、地域住民の生活向上に貢献し、交流を深めている経緯がよく理解できる。
- 「シリンホト第22次緑の協力隊」が北京へ向かったのち、「アミダの森」中国支局を担っている王蒙志の体験談を伺う。その要点は次のとおりである。
シリンホト草原では、かつての遊牧民に50年間にわたって、牧草地がリースされている。沙地に木が育てば、砂漠化を抑制できるばかりでなく、牧民が成木の伐採権を行使できる。ポプラだけを植林すると、地下水位を下げる恐れがあるので、樹種の多様化を進めている。山杏、障子松、黄柳、椗条、楊柴などである。松本さん(植木職人)の助言を受けて、この地域に自生している楡の植林も進めたい。日本から植林に来ていただくのに最適の期間は、苗木の生育条件から見て、春の4月10日から5月20日と秋の10月10日から30日である。しかし、春は粉塵と砂嵐がひどく、慣れない人には植林作業が困難であろう。それに比べると、やや寒くなるが秋の協力隊に期待したい。
内蒙古の著名なラマ教寺院の門前町として発達した町の文化的な背景を知るため、寺院を訪ねチベット仏典読経の末座に就く。
中国内蒙古財経学院ウインガー研究員(内蒙古経済研究)と龍谷大学経済学部河村能夫教授(農業経済学)との共同調査グループに合流し、シリンホト近郊の「生態移民」を訪問し面接調査する。この調査については、日本学術会議の長命洋佑特別研究員が畜産統計の分析を含む詳しい報告書がまとめる予定である。現地調査に同行してくださった、中国共産党シリンホト市委員会組織部の呼和氏の談話を中心に、環境問題の要点のみを記す。龍谷大学経済学研究科博士課程在学中のサルラ氏が通訳をしてくださる。
草原の沙地化が進んでいるのは、食肉と牛乳需要に対応した牧民による増産が、かつての遊牧生活から定住化を促し、草地の負担を強めたからだという。長年、遊牧民は無主地を季節的に移動することによって、異なった植生の草原を維持してきた。しかし、人民公社制からの改革開放の一環である1989年の牧民への個別的な草地配分(30-50年リースによる)が、環境の負担を無視した畜産経営に向かわせた。経済成長を目指す「鄧小平の政策」ともいうべきこの困難を克服するため、共産党では草原放牧からの「生態移民」政策による家畜の舎飼化を進めている。いわば合作社経営の再来であるこの政策には、中国内でも賛否の両論がある。
<JIPPOの取り組みについて>
- シリンホトにおける「アミダの森」の植林事業は、地域住民から高く評価されている。樹種の多様化も進み、日中双方での多角的な交流活動も展開されている。「南無阿弥陀仏」という念仏は、モンゴル語で「オムマニバッドマーフォン」と発語され、仏像に手を合わせて唱えられている。その意味で日本仏教への親近感は強い。JIPPOとしても、今後積極的に参画すべきであろう。2年後に予定されているNPO法人「沙漠緑化アミダの森」の解散までに、貴重な経験を学びたいものである。早急に、両法人間の協議を進める必要があろう。
- 草原の砂漠化を招いている環境問題の主たる要因は、日本からの植林事業ではなく、中国経済の高度成長と民衆の生活向上が必要とする開発政策にある。所得の上昇とともに需要が拡大する、食肉と乳製品の飛躍的な増産を図るには、遊牧民時代に行われていた草原利用では不可能である。「生態移民」の成否はともかくとして、草原の環境保全には、新たな視点からの政策が必要とされるであろう。
以 上